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悲願花 上

 

眩しい光が【見える】
圧倒的な光が見えるという情報を彼に落とし込んでいく。

空のように碧い眼を見開いた金髪の青年は、膝立ちで座っていた。どうしてこんな体勢なのか、どうして辺り一面三六〇度全て硝子張りなのか、どうして檻のようなけれど一人で入るには広すぎるその場所に、一人いるのか。沢山の疑問が溢れ出でて来る。
だが、その全てを吹き飛ばしてしまいほどの一つの衝撃が彼を襲った。
「見え……見られ、全部、見え……あっ……あ……」
真っ直ぐに前を見ていると身体は認識している。けれど見える範囲が自分が知っていたものとはまるで違う。通常は半円よりも少し広く、視界は帯のようになっているはずだった。
なのに、今は後ろも前も上下も左右も、壁の向う側すらも見えてしまいそうなほど明確に全てを認識することが出来ていた。
見えている。
見えているということは、見られている視線を全て感じる事ができてしまう。
硝子の向うに映る映像越しに見える人の視線。あっちにも、こっちにも、全部、全部、全部。
「うっ……ぐっ」
思わず口元を抑え、蹲る彼。
「うおおぉおおおえぇぇ」
腰を折って中身の出ない嘔吐をしてしまう。身体の中には出すようなモノは何も無い。それでも強烈な吐き気と目眩と、嫌悪に反射的にこの身体は嘔吐いた。

見られるのは嫌いだった。

全てが比較のための眼差しだから。最初だけだ、純粋に綺麗だと言うのは。何も知らないもの達だけが触れていく時代の終りと共に、待っていたのは、上か下か、似ているのか似ていないのか。そんな舐るような視線だけだった。
染みついた記憶が、付喪神を宿した刀の記憶が、今更抉り出されて目の前に拡げられているような気分だ。
嘔吐く反射で、涙が泣きたいわけでもないのにボロボロと落ちていく。それでも視界が殆ど揺らがず顔を伏せているはずなのに、天井の灯りの数すらも全部分かってしまうほどだった。
窓の向うから見られている、じっと。ああ、アレはなんだ。二人の人間か?
蹲って床に顔を埋めていきながら、彼は懺悔をするように肘を床に付いてしまう。白い床は温度もなくヒンヤリと冷たい。巨大な石か何かで出来ているのだろうか。ふと気を紛らわせるためにじっと床を見ると、眼の辺りに霊力が集中していき、勝手にあまり余裕のない力を使って判別してしまった。床は溶けた意志の材料のようなものを固めて出来たモノらしい、と。
「んだ……これ……は……」
気持ち悪さと気味悪さに困惑する彼。
確か最後の記憶は。

―――ああ、山姥切を俺は、壊したのか。

赤い血溜まり、倒れている【彼】の姿。
自分でもわかるくらい壊れていく、自分の魂。

その後、確か。
思い出した彼は、見えているのにも関わらず顔を上げた。そこには白い布で顔を隠した人の形をしたものと、隣には好青年の姿をした何かがいた。何故だろうか、人間だとは直感的に思えなかった。見えてはいたが、きちんと認識しないとソレが何かまでは分からないらしいと、ここで彼はぼんやりと気付く。
白いソレには見覚えがあった。
山姥切を壊した直後に、現れたそいつは【回収】といって自身の身体を刀剣に戻したのだった。その後に記憶は今の今までなく、意識もなかった。
顔を上げて真っ直ぐに碧い眼が見て居ることに気付いた白い人間らしいものは、ふと動きだしこの部屋の扉を開けて入ってきた。そう言えばこの部屋も随分白い。きちんと認識していなかったが、真っ白だった。汚れることが許されないほどに。
白いそれは、和装を着崩した青年を後ろに引き連れていた。後ろのやつはまるで従者だ。草履を履いてはいても歩き方は実に静かで、粗暴さではなく上品ささえ感じられた。
「おはよう、山姥切国広。気分はどうだい?」
白い人間らしきものは、彼を見下ろしながら淡々と問いかける。顔も表情も分からず、声からも感情が読み取れない。やはり人間では無いのか。声の質でも性別は分からないし、思い切って【視て】みようとするも先ほどと同じように霊力が自動的に分析することは無かった。
「……最悪だ」
声を主を見上げて、吐けなかった代わりに涎と涙を垂らしながら、山姥切国広は吐き捨てた。
言葉に偽りはない。完全な本心だ。見えていることが気持ち悪くて仕方がない。こんな身体の異変は一体どうなっているのか。……元々は刀剣に憑いた微弱な付喪神だったのだから人の身体を持っていた事がまずおかしいのだけれど。
「そうか。何か身体に異変があったようだが……どこか痛むのか?」
うずくまって、嘔吐いていたのを白いのは見ていたらしく、事務処理のように問いかける。
「……痛みはない。だが、強いていうなら……見えすぎて吐きそうだ」
腹の中に何も無かったのが幸いだったな、なんて自嘲気味に彼は笑う。笑うと言っても唇だけで頬も、眼もどこもかしこも笑みの形なんか取ってはいなかったのだが。
「見えすぎるか……後で確認しておく必要があるだろう。陸奥守吉行、後でデータ確認のための実験を……」
白いものは、頷くと隣にいた青年を見上げた。見上げて青年の様子に言葉尻がか細くなっていく。
彼の眼は輝いていた。とても嬉しそうに。いつだって新しいモノを引き入れる度に彼の眼は輝いていたが今回は特に嬉しそうだった。
「おお、こっちの姿で見んのは初めてじゃが、まっこと綺麗なヤツじゃのぉ!」
聞き慣れない方言のキツイ陸奥守吉行と呼ばれた刀の名前を持ったそいつの言葉に、山姥切は思いきり憎い相手にでも向けるような眼力で彼を睨み付けてしまう。
「綺麗とか、言うな」
その言葉は嫌いなんだ。
長い前髪で隠れている碧い眼は殺意でギラギラと輝いていた。
「うおぉお、こわやこわや。山姥のようじゃ」
綺麗な外見で人をおびき寄せ喰らう鬼婆、それが山姥の代表的な逸話である。随分と古い知識を持ち合わせているそいつに、山姥切は直感的にそいつも自分と同じ刀剣の付喪神など悟った。刀の名前を持っているし霊力も持ち合わせているようだから間違いは無いだろう。後で確認しておくべきか、なんて頭の端で睨み付けながらも彼は考えていた。
「まぁまぁ。とりあえず、山姥切国広の改変には成功したようだ。あとのみんなにも伝えて状況を教えてくれ。私が話してもいいが、データの整理がある。それに、データの整理が終り次第すぐに皆集まらなければならない」
山姥切国広に顔を(とはいえ白い布がのれんのように顔を隠しているため本当に顔かは不明だが位置的には顔だ)向けて、白いそれは感情のない言葉で告げる。
「私達を作った人間様達が5振りの刀剣男士、そして私に話があるとお呼びだ」

*

まるで星空のように幾万のモニタが貼り付けられたドーム型の部屋に、五つの簡素な椅子があった。真っ直ぐ横並びになった椅子。そこに五つの刀が人の形のまま静かに座った。
一番側には琥珀色の眼が印象的な、陸奥守吉行。
その左隣の二番目には紅の瞳をした加州清光。
三番目中央には紫色のふわり揺れる軽やかな髪が印象的な歌仙兼定。
四番目には金色の装束に、長い真っ直ぐな紫色の髪が特徴的な蜂須賀虎徹。
最後の左端には先ほど再構成されたばかりの金髪碧眼の付喪神山姥切国広。

山姥切は全身に感じるモニタの視線に吐き気を覚えながらも、必死で嘔吐かぬよう耐えていた。顔色は非常に悪い。あまりの悪さに、俯いてしまい、全く分からない状況を判別することも出来なかった。
そこへ、ふわりと頭に被せられる一枚の白い布。
「……?」
長い布は椅子の足先まで届きそうな大きさだった。前方以外布で隠されたことで、少し視線が緩和できたのか気分が若干落ち着くのを山姥切は感じていた。
「物理的に遮れば、少しは……楽になるのではないかな」
隣には、白いあいつの姿があった。どうやらデータの整理が終わったらしい。
「……すまない」
ぎゅっと布を握りしめて深く頭から被った彼は、ここでようやく顔を上げて前を見据えることが出来た。

そして少しの後、ザ、ザ、と部屋中のモニタに電源が、いやまるで命が灯ったかのように輝き始めた。プツ、プツ、とついていく画面の向うには人間の姿があった。彼らはじっと、椅子に座った付喪神を見ていた。まるで見定めるかのように。
灯り続けたモニタはが全て立ち上がった後、5振りの付喪神の目の前にある巨大な、それこそ成人男性が横になったほどのある大きなモニタがブツン、と起動し始めた。
ザ、ザ、と潮の音のようなものが響いた後、ゆっくりと現れたのは、黒い髪に和装の、若くもなく年老いてもいない妙齢の男性の姿だった。
その画面向う側の男性は、口を開いた。
『こんにちは、初めてお目に掛かります。付喪神様』
口を開くとモニタの枠辺りから声が聞こえ始めた。どうやらこのモニタだけは音を発することが可能となっているらしい。音の主は話し始めた男の姿を見つめる見目麗しい男士達を値踏みするように見つめていた。
画面の向こうからしっかりと、彼らの姿を認識していた。
『私は、古の人の意識を管轄する【政府】の代表である人間です』
男は重苦しい口調で、黒いスーツ姿で話していた。座っている付喪神達とは違い、彼は立っていた。男は淡々と続ける。
『突然の事で困惑を隠せない方もいらっしゃいますが、事態は一刻も争うのです。どうか、ご無礼、お許しください』
深々と、腰を折って男は謝罪の礼を一つ。
『貴方様方を今ここに集めたのは、私達は神に、願いがあるため』
5振りの刀剣達はただ静かに、言葉を聞いた。眉一つ動かさずに、人間と名乗る存在の願いを待った。
『単刀直入に言えば……この間違った歴史を元に戻して欲しい』
間違った歴史。
刀剣達は身に覚えのある事象に、まるで胸を刃で突き刺されたかのような表情を浮かべた。表情に差はあるが、おおむねそんな反応だった。
男は、黙る神々に続けた。
『私達人間は、今は肉体を失い、生命であることを失い。偽りの精神体でのみ生き続けている。精神体は魂と呼ぶべき代物だ。しかし、長い年月肉体を失った代償か、魂が徐々に集合体へと変質し始めてしまった。集合体になってしまうということはすなわち、人間が人間である個の意識が失われ、人間でありつづけることが困難になってしまう』
「はいはーい、ちょっと難しいんですけどー噛み砕くと、人間の身体が無くなって魂だけで生きてたけど、もう限界ってことー?」
手を上げるのは、加州清光。軽い口調だが、姿勢は正しく真っ直ぐだった。
『その通り。このまま私達人間が魂のみで電子の中で存在し続けると、やがて個が消え人間という生命が消滅してしまう』
画面に映る男の姿は、そのまま人間の魂を映し出したモノらしい。
『私達は、どうにかこの現象を止められないか探した。探した結果未来から歴史を変える介入者が過去に現れて史実を変えて言ってしまった結果、この人間という生命が消滅しかかっている未来になってしまったのだ』
人の未来が消滅する。
その危機に瀕しているのだと、電子の中の魂は語る。

そして、魂は続けた。
未来からの改変を上書きして元に戻せる方法を見つけたのだと。

まず歴史改変には人間では無く物質が有効であった。
物質こそが世界線を越える概念を持つことが判明した。
物に刻まれた記録はそう易々と改変されたりはしない。物に刻まれた歴史はどんなに時間の修正がされたとしても変質することはなく、正しい歴史を認識することができる。
だから、違う歴史に意図的に改変することも可能である。

物が語り部故、物語。それは、歴史を孕める。
媒介が変わらなければ、刻まれた物語は、歴史は不変。

そしてその中でも、物語を孕んだ刀剣がもっとも顕現しやすい存在として選ばれた。
物語の数も多く、また物語を孕む刀剣には付喪神が宿り、戦力としては申し分ないと判断された。
人に近しく、人と共に生きてきた刀達。

未来はこの刀剣を男子の姿にすることで兵として利用し歴史を改変してきた。

『ならば、私達も同様の手段をとり、後手に回ってしまっているが改変を阻止する時空に移動して敵の手を止めればいいと結論が出た』

目には目を歯には歯を。
こうして政府は未来の技術を盗用し、人の記録の中から審神者なるものを生成した。審神者は物の心を魂を、霊力を用いて人の姿にすることが出来る存在。
「――それが、私」
ぽつり、白いそれは口を開いた。
「政府、ここから先は私が……願ってもいいでしょうか」
審神者なるものは、あいかわらず感情のない口調だ。その提案に、政府は快諾した。彼らの改変に成功した審神者なるものであれば、と。
政府からの了承を得た審神者は、並んだ五人の前に移動した。
「つまりは、人間の勝手な都合で使われていた君達を、また勝手な都合で利用して。人間の尻ぬぐいをしてくれという話だ」
人間の道具として、使われてくれと頼まれているのだと、審神者なる物は単刀直入に言い放つ。
「うおぉ……わっかりやすくゆうてくれたんは、ええけど」
「道具として使われてくれ、ってことか」
陸奥守がその通りじゃか、と頭を抱えて他の四振りに視線を向け。
蜂須賀は仕方がないと苦笑していた。
審神者なるものは続ける。
「もちろん、人間の従僕である物とはいえ、神に願いを託すのだ。神に対してはそれ相応の対価を支払うつもりだよ」
手を大きく拡げて、顔を見せない審神者は語る。
「君達全員に、当てはまる事だ。ちゃんと、全員の願いを汲んだ内容だ」
椅子に座った付喪神達は、願いという言葉に息を詰める。
「この戦いが終わったら、収束したら。君達にその人間の身体を与えよう。改変はしているが、再構成した後のその身体は以前の兵士としての身体より人のそれに限りなく近い」
活動を続けるためには物を食べて吸収し、霊力という身体を動かすための力を生み出さなければならない。傷も癒すことが無ければ、朽ちてしまう。
そして間違えれば死んでしまうことだってある。
そんな身体を、人と同じように時間を紡ぐことは出来ないが。
それでも、人に類似した身体を持ち続けることが出来る。
審神者なる物は彼らに淡々と説明した。5振りの刀剣達は、何も言えなかった。すんなりと、審神者の言葉を受け入れていた。
だって。
「君達は人になりたかったのだろう?」
「!」
「っ!」
「……」
「……っ」
「!!」
全員が、擬似的な心臓を貫かれたかのような心地を覚える。
「改変するにあたって、君達の記録は……記憶は解析させてもらった。その中で君達が心の奥底から願う物は全て同じだったんだ。偶然だろうか?いや、私は……必然だったからこそここに揃ったのだと思う。人になりたかった、でも叶わなかった。だからこそ、君達は罪を犯したのだろう?」
陸奥守吉行は、維新の仲間の刀を。
加洲清光は、自分自身を。
歌仙兼定は、無差別に35振りを。
蜂須賀虎徹は、虎徹の贋作と浦島虎徹を。
山姥切国広は、本科山姥切を。
それぞれ人で言う殺害を犯し、叶わぬ願いを別の願いで隠してしまい込んでしまった。
同胞が同胞を殺すことが罪だと言うのならば、彼らのしたことは罪になる。
重い、重い罪に。
「ああ、けれど、歌仙兼定、蜂須賀虎徹。君達はその罪の記憶を失ってしまっていたんだっけ」
審神者はあえて罪の内容を口にせず、続けた。
「とにかく……偽物かもしれない、本物の慰めにもならないかもしれない。それでも、私達に出来るのはこれだけだ」
審神者は彼ら5振りに見えるようにその場で正座し、両手を正面に合わせて綺麗に土下座をする。
「罪を抱く刀剣達、どうか……人間を……救って貰えないだろうか」
人間に生み出された審神者。それに続くように、モニタに映る人間達が皆深々と頭を下げて願った。

人は、いつだって最後は。神という己が作り出した概念に……頼ってしまうのだ。

*

「で、結局全員承諾しちゃったってわけかー」
審神者なるものかた手渡された巻物を手に、加洲清光は呆れた様に苦笑した。
一つの大きな扉の前に、5振りの刀剣男士達は何となく集合して互いに顔を見合わせてそれぞれが気まずそうに笑い合った。
政府からのお願いを引き受けてから数日後。
これから行なう審神者システムについての説明や、山姥切国広の霊力調整を終えた今この時。彼らはそれぞれの世界線へ旅に出ることになった。
「ま、他にやる事もないし。偽物とはいえ人と同じように動ける身体は惜しいからね。存分に楽しむつもりだよ」
歌仙も巻物を手にしながら、悪びれた様子もなく承諾した理由を述べる。扉はまだ準備中で向うに行くことは出来ない。自分達の身長の五倍くらいはありそうな見上げれば首が痛くなりそうなほど大きな扉。
そこに審神者なるものが霊力を注入し転送の準備を施していた。青白く輝く光が下の方からじわじわと上へ登っていく。扉は石造りで、彫り物が施されていた。模様は遠目から見れば大きな蛇と鐘と、刀を構えた男性の姿が描かれていた。
「俺は……何か償わなければならない事がある気がするんだ……身体が貰えるのは嬉しいけれど、それ以上に人に頼まれたら叶えなくてはって思うよ」
蜂須賀は巻物を片手に持ちながら真っ直ぐに扉を見上げた。
「……そうか……」
山姥切国広は刀らしい心持ちの真作を眩しそうに見つめた後、思い出したように問いかける。彼は結局布を被らないと落ち着かなかったらしくボロボロの白い布を頭から被った出で立ちだった。汚れているのは綺麗と言われたくないから、らしい。
「ところで、そう言えばこの巻物はなんだ?俺は最終調整があったからこれについて説明は受けていないんだが」
他の4振り全員が持っている同じ巻物。一体これはなんだと山姥切は首を傾げた。
「おん、こいつぁ、わしらがこれから主様になる審神者様に伝えるべき事柄と、わしらが絶対にやらんといかん事が一つだけ書いてあるきに」
そう言って、山姥切に見えるように彼は巻物を解いて見せた。
そこには、箇条書きでこう書かれていた。

はじまりの審神者からのルール。

・5振りの君達は初期刀として、各次元の審神者なるものに政府から支給する。
・初期刀の役目は一つ。審神者なるものと共に、その次元に多次元からの刀剣男士を鍛刀と称し召還すること。
・1本でも召還に成功すれば、その次元には穴が空き、初期刀が存在しなくとも敵勢力の改変化(ドロップ)、および別次元からの召還が可能となる。
・君達のような他の次元からの潜入者であり、改変に成功した君達自身が鍵となる。
・初期刀としての役目を果たした後は審神者なるものに従い、歴史を修正させずに正しい歴史に直していけばいい。
・その間、君達が折れても君達自身は他次元の自分達と全ての記録が結びつくように出来ている。
・初期刀として、多次元からの変動に耐えるため改変を加えているのだから。

「なるほど……絶対に忘れてはいけない事、か」
納得する彼は金色の髪を布の内側で揺らして頷いた。
「あとなんだっけ、この巻物、俺達が触れてないと文字が見えない仕組みなんだって。なんでも俺達自身の固有の霊力ーえーっとはちょお?だかなんだかに反応するから、他のやつが見れないようになってるんだってさ」
便利で都合の良い技術だよねーなんて加州は笑う。
「ほーー便利じゃのぉ。霊力」
自分達で使っておいてなんなのだが。
「おーい、君達準備が出来たぞ」
そうこうしているうちに、はじまりの審神者は準備を終えたと5振りを呼ぶ。
彼らは横に並んで扉の前に立った。人間達に願われた時と同じ並び順で。
ギギ、と重い扉が開かれるとそこには闇が広がっていた。しかし闇の中には星のような輝きが幾万幾億と瞬いていた。
扉の向うを目の当たりにしながら彼らはぽつり、ぽつりと語り始める。

「ねえ、俺達はみんなこれからどれだけ沢山の同胞を殺すことになるんだろう」
「さぁ、僕は覚えていないけれど。今更、なんじゃないかな。元々僕らは武器で道具だ」
「だよねー。頼まれちゃったらやっぱなんか、断れないよ。付喪神の性ってやつかなー。っていうかさ、山姥切、布被ったまんま行くの?」
「だから言っただろう。見えすぎると気持ちが悪い」
「そんでか。勿体ないのぅ」
「綺麗とか、言うな」
「ははははは」
「ってわけでーそろそろ行かないとまずいっぽいって、審神者がこっちみてまーす」
どうやら扉の準備が完了したようだった。扉は青白い光でいっぱいになり、その扉が描く模様を綺麗に輝かせていた。
「おっと。覚悟を決めないといけないね」
蜂須賀は静かに頷く。
「ま、わしらは皆、全部を共有できゆうようにできちょる。また、どこかの本丸で合おうぜよ」
陸奥守は腰に手を当て笑う。
「そうだね」
加州は陸奥守に同意し、他のみんなも一緒だろうと目配せする。皆静かに同意を示す視線を返した。
「さぁ、行こうか」
歌仙は真っ先に足を踏み入れる。
「ああ。終わらない戦いを……始めよう」
山姥切が強い視線を扉に向けたのが最後。皆開かれた扉の向うへと消えていった。

これから自分達は、幾億幾万もの時空間のある平行線を飛び越え、一つの未来を正しい未来を救い出す。
正しい、ではない。
唯一人間が生き残ることの出来ていた未来を取り戻す。
たとえそれが、未来が人間の危機に瀕して行なった行為でも。
それでも、人が人として死ぬことの出来る世界を、人間は望んでいる。
彼らは人が望むまま。人になりたいと願ってしまった、物としての罪を背負って。

終わらない戦いへと向かっていった。

 

 

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